なにか失敗をすると、巻き返そうとしてしまう。大きな目標を置いて、そこから逆算して、一発の逆転ホームランを狙いにいく。焦る。大振りになる。で、だいたいドツボにはまる。
焦っているときの自分は、たぶん、線を引こうとしている。ここからあそこまで、最短の一本線。逆算というのは要するに、先に線を引いて、点をあとから線に合わせにいく発想だ。
でも、線なんて、見えたことがあっただろうか。
働いていて、自分の意思できれいな線をなぞるような仕事を、私はできたことがない。毎日、目の前の点をうっているだけだ。なのに振り返ると、戦略を立てて計画通りに動いたかのように見えてしまう。
他人にそう見えるだけならまだいい。自分にもそう見える。散らばった点を、脳が線でつないで、もっともらしい物語にしてしまう。
過去にいくらか「うまくいったな」という結果があるとして、思い出してみると、すごい線を引けていたわけではなかった。
過程で、大崩れしなかった。それだけだったりする。めちゃくちゃプラスになる前に、どマイナスにはまると、取り返すだけで体力が尽きる。派手な一撃より、崩れなかった日々のほうが、あとから効いている。
ハムレット、という話を知っていますか。
デンマークの王子の話、らしい。父王が急死、叔父が王位につく。そこに父の亡霊が現れて、あれは毒殺だ、復讐しろ、と言う。王子は頭がいい。頭がいいので、動けない。亡霊は本物なのか。叔父は本当に犯人なのか。物語の中途、クロだと確信する。だが、それでもまだ動けない。最後、叔父を追い詰め、ついに殺せるという場面で、今殺すと天国に行ってしまう、と理屈をつけて剣を収める。
有名な「To be, or not to be」というセリフ、このように迷い続けた男のセリフである。
しかし、物語の終盤、あきらかに罠くさい決闘に誘われた彼は、「嫌な予感がするならやめておけ」と止める親友に、こう返す。大事なのは覚悟だ、「the readiness is all」そして最後に、ぽつりと言う「Let be」。
なるがままに。To be でも、Not to be でもなく、Let be。あれだけ揺れていた男が、最後は「なるようになる、覚悟だけしておく」と言う。そして彼は、決闘に出ていく。
ハムレットは、逆転ホームランを狙って固まった男だ。父の仇という大目標。そこから逆算した、完璧な一撃。その大振りの構えのまま、ずっと焦って、空回りして、関係ない人を巻き込んで、ドツボにはまっていった。
まとめてしまえば、あの話は「亡き父の仇を討った王子の物語」という一本の「線」として語れる。でも実際の彼は、最後までただ慌ただしく「点」をうちつづけ、なるようになると覚悟を決めた。
ジョブズは、 線はひけない、点は後からしかつながらない、今は信じてうて。「connecting the dots」という話を語った。
線が引けないなら、人間には何が残るのか。覚悟がすべて、とハムレットは言った。覚悟とは何か。目の前の点を、深くうがつこと、だと思う。
Task Focus。目の前のタスクに集中しつづける。深い点は、根っこのところで、翌日の別の点と、つながることがある。昨日のタスクが、今日のまったく別のタスクと、地下水脈でつながっている。線を狙って引くのではなく、点を深くうって、線につながる確率を上げる。
毎日集中し続けるのはしんどい。会心の一撃はめったに出ない。ほとんどの点は地味で、うった直後に消える点もある。
でも、消えた点は、次の点の材料になる。ホームランを狙って大振りするより、今日も点をうって、明日も点をうつ。大崩れさえしなければ、点は残る。
現実には、ゴールから逆算して、線を描き、語れる人が評価される。投資家も、上司も、採用担当も、きれいな一本線に安心する。そういう処世術は必要だとおもう。ただ、その線を、最初から実際にあのとき描いていたんだと、自分でも信じ込んで記憶してしまうと、危ない。見えてたはずの、線が見えない。焦りは、だいたいここから来る。
線は語ってもいい。だが、線にひっぱられない。
丁寧に作ったものが、大きな流れの中であっさり別の形になる。雑に投げたものが、思わぬところに届く。人事を尽くして天命を待つ。
人事として残るのは、今日の点をどれだけ深くうてるか、くらい。
焦らない、焦らない。と、このごろ毎日、呪文のように思っている。逆転ホームランは狙わない。今日の点を、ひとつ深くうつ。
Let be, Let be, Let be.
点は毎日うつ。線は後から、勝手に見えてくる。




素敵な話でした!