最近、本棚の前に立っていて、ふと思った。
なんか、たくさん本があるのだが、実際、役に立ってるのか?と。
考えてみると、読んだはずの本が並んでいるのに、意外と細かくは内容をほとんど覚えていない。これは何章で何が書かれていて、著者の主張はこうで、みたいなことを、きれいに説明できない本がかなりある。読んだはずなんだが。読んだ直後は鮮明に覚えてたとは思うんだけども。そこからX年経って、今こんな感じ。
だから、まあ、結局、読んだ意味あるのか、と言われると、まあ、あるような気もするし、ないような気もする。
この本棚、全部まとめていくらぐらいかな、などと、下世話な考えが頭によぎる。ああ、資本主義。いやだいやだ。
しかしながら、内容は忘れているのに、明らかに自分のものの見方だけはたぶんじんわり、変わっている、変化させられてるのは、実際のところ感じてはいる。
読書というのは、健康的で、知的で、前向きな営みみたいな顔をしていて、読めば読むだけ、経験値が入り、レベルアップ、スキルが増える、みたいなイメージはあるが、そんなことはなく、実際には、ねっとりと、自分の何処かに、変な「癖」が、予測不可能に、淀みのように自分の奥底に溜まっていく感じに近い。
本から学ぶ、という言い方がある。
もちろんそれはそうなのだけど、自分にとって本当に残っている本は、学びをくれた本というより、むしろしこりを残していった本だった気がする。
読んだ瞬間に「なるほど、わかった」となる本は、便利ではある。仕事でも使えるし、話も早い。だけど、わかった本は、意外と早く自分の中から出ていく。
逆に、よくわからなかった本の方が、残る。なんかむかつくな、と思いながら残る。お前は結局何が言いたいんだ、と思いながら残る。
こっちは生活があるんだよ、仕事もあるし、子どもの塾のことも考えなきゃだし、請求書も出さなきゃだし、 Slackの通知も鳴るんだよ、と思っているのに、変なタイミングで本の中の言葉が戻ってくる。
そう、ある種の本は、こちらの人生に対して少し遅れて届く。目の前の仕事で「これは正しいのか」と考えているときに、昔読んだ思想の本がぬるっと顔を出す。
たぶん、本というのは、大事なのは、情報ではないのだと思う。情報なら検索すればいいし、要約すればいい。今ならAIに聞けば、だいたいのことはそれっぽく返ってくる。だからこそ逆に、本の変なところが見えやすくなった。
本は情報を、答えを返してくれるものではなく、逆に、話しかけて、問いかけてくるもの、な感じがする。
最近は、何でも早く届く。情報も、答えも、要約も、レビューも、動画の切り抜きも、全部早い。早くわかることは、かなり偉いことになっている。実際、早くわかることは大事だ。仕事では特にそうだ。
わからないまま止まっていると、普通に迷惑がかかる。自分も、仕事の本も読む。実践的な本も読む。アジャイルとか、プロダクトマネジメントとか、組織論とか、そういう本も当然読むし、そういう本に救われることもある。
すぐに使えない本は、効率が悪い。タイパも悪い。読んでも収益に直結しない。人に説明しづらい。なんなら読んでいる途中は、これ何の意味があるんだろう、と思う。
早くわからないものを持っておくこと。わからないまま、何年も持っておく。答えを出さないまま、生活の中で何度も反芻する。たまに本棚から取り出して、数ページだけ読む。全部読み返さなくてもいい。線を引いたところだけ見る。昔の自分が引いた線を見て、「こいつ何に刺さってたんだ」と思う。
でも、そういうのが、結局、深く、残る。
すぐに意味がわかるものは、すぐに消費できる。すぐに消費できるものは、すぐに忘れられる。もちろん、それはそれで大事だ。全部が全部、重たくて面倒くさい本だったら普通に疲れる。そんな生活は嫌だ。
ただ、自分の中に何年も残るものは、だいたい最初はよくわからない顔をしている気はする。
このへんは、なんか、人間関係に少し似ている。すぐに気が合う人もいいけど、あとからじわじわ効いてくる人がいる。最初は少し苦手だったのに、なぜか何年も経って言葉を思い出す人がいる。あのとき言っていたこと、もしかしてこういうことだったのか、と思う瞬間がある。
久しぶりに会うと、昔と同じことを言っているようで、なぜかこちらの受け取り方だけが変わっている。
本は役に立たなくていい、とは言わない。役に立つ本はありがたい。できれば役に立ってほしい。高いし。置き場所も取るし。
ただ、役に立つ顔をしていない本が、あとから一番役に立つことがある。そこが本のずるいところだと思う。
今日もたぶん、実用的な本を読むべきなのだろう。
仕事は難しい。毎日悩む。だから、今の仕事に直結する本。明日の意思決定に使える本。すぐにメモにできる本。そういう本を読んだ方がいいに決まっている。
でも、何の役に立つのかよくわからない本を読む時間も残しておきたい。
すぐには返事をくれない本。こちらが歳を取るまで黙っている本。忘れた頃に、妙に冷たい顔で戻ってくる本。
そんな、面倒くさい友だちと会って、面倒くさいなお前と言いながら、結局、笑い合う、そんな感じで今日も本を読む。




情報が早くわかりやすく届くことは、とてもありがたいし便利だけど、、私たち人間ってやつは、どこかで「もっと味わいたい」って思ってしまうみたいですね。癖や余白、よく噛んでジワっと染み出てくる何か。そういうのがやっぱり手放せない。