
経済学の論文を読んでいる。
4月から主としては教科書の勉強や、大学の課題をやっており、論文をちゃんと読むのは早いかなと思っていた。大学では基礎科目をやっていて、内容的には自分の興味関心とはまだ距離がありモヤモヤしていた(とはいえ、基礎をちゃんと固める大事さも少しわかってきた)。
そこで、Claudeと1週間ほどキッチリ会話して、自分の興味分野とどこからエントリーするべきかをそれなりに精査して、精読する1本目を決めて手に取ったところ。
選んだのは “Leadership, Coordination and Corporate Culture”1(リーダーシップ、協調、企業文化)。リーダーとはここではCEOを想定しているが、CEOの性格(頑固or柔軟)と組織の現場からの情報をどう活かすか、についてゲーム理論的にどういった組み合わせが最適かを経済モデルで記述するもの。
結論は結構面白くて、
良い企業の状態は2タイプある=複数均衡
タイプA:CEOが頑固で、新しい情報があっても当初から持っている事業仮説を変えない方が企業の状態(独裁的な均衡)
タイプB:フォロワーがリーダーに影響を与えようとし、リーダーもその行動から学ぶ企業の状態(導き、導かれる 均衡)
集団主義的特性を持つ構成員から成る社会ほど、頑固なリーダーが最適になる
個々のメンバーの行動の結果が事業成功と紐づくものになっているほど、タイプAよりもタイプBのリーダーが有利になる
CEOが有能なほど、社員はミッションを重く捉えて自分の判断を使わなくなる。そのため、現場から新しい情報が出てこなくなり、CEOは学べなくなる。
この結果として、能力の高い合理的なリーダーは、能力の低い頑固なリーダーが組織パフォーマンスで負けることがあり得る
ということ。割と実感には合うというか、意地悪く言えば結論そのものに驚きはないが、この数式だけからこれだけ実感と違和感のない結果が出てくる事自体が凄いのかもしれない。
理論経済学なので「良い企業の状態」の設定は恣意的な数式に過ぎないが、
①組織が協調的に動けている
②自分の行動と組織の戦略がアラインしている
③事業的に成功する率が高い方針
の3つの要素で利得を感じる、社員i人の厚生(要は快適度ポイントみたいな) の合計として計算する。このあたりはまあ、最低限納得感のあるおとぎ話と言うか。
感想としては、論文の内容云々もあるが、「もっと早く論文を読むステップに入ればよかった」というのが大きい。僕は性格的に、がむしゃらな積み上げよりも具体的に見えるゴールとの差分で考える方が得意だと思う。
興味ある論文を探して読むという工程の中で、
経済学がいまどの程度の議論の水準にあるのか、それを理解するために必要な道具(数理)はどんなものか、「興味ある分野」だと思っているものに本当に興味が持てるのか、周辺にはどういった議論があるのか、
などが概観できた。おかげで、勉強したいことが増えたし、知りたいことの精度もモチベーションも上がった。
あと、AIの存在はかなり大きい。論文を探すこと、分野の地図をラフに把握すること、耕されていない領域がどこか、というリサーチから、英語と数式にまみれた論文を読むのなんて、Claudeさんの助けがなければ挫折していたと思う。
以前に勉強に関してはAIに感謝せざるを得ないと書いたが、先日森脇氏の知古で東京大学経済学部の講師の人を訪問して話をさせてもらったが、彼もAIの登場で社会人から学問へのエントリーのハードルも大きく変わるだろうと云っていた。2
全く面白い時代だ。ガチで学問をするには本当に追い風な環境だと思う。変な挑戦ではあるが、どこまでいけるものか。
Bolton, P., M. K. Brunnermeier and L. Veldkamp (2013), Review of Economic Studies
先行研究の調査やモデリングなどは、AIがかなり補助できるため、やはり今後の焦点は人間が持っている身体性のあるリサーチ・クエスチョンや、問いへの拘りになりそう、という話にきこえた。



