日常の異物、異世界の日常
Bling-Ban-Ban-Born は何故、毎日食べたくなるのか?
ここ最近で最も震えた瞬間について書こうと思う。
ダウンタウンプラスのとあるお笑い企画を見ていた1。大喜利が苦手だという陣内智則に、大喜利をやらせる。ここで出されている大喜利のお題が、なかなかに難しい。特に難易度が高そうだったのは、3題目。
「Bling-Ban-Ban-Born は毎日食べたくなる。何故?」というもの。
これはトリッキーな大喜利問題だ。それに対する陣内の答えは以下だった。
一答目: カルシウムが豊富
二答目:うまい・安い・安い・早い
三答目:田中みな実が食べてるときいたから
素人の僕が云うのも何だが、中々に酷い。少なくとも、大喜利として面白くはない。陣内は確かに大喜利が苦手なんだなというのが、見ていてよくわかった。
ただ、陣内の力量は別としても、この問題は難しい。ボケるための取っ掛かりがない。Bling-Ban-Ban-Bornといえばこれ、という共有認識は少ない。食べ物だという指定はある。が、どういう食べ物であれば、Bling-Ban-Ban-Bornと云う名称を活かせるのか、ヒントは少ない。その中で、陣内の二答目だけは、少しフックを感じる。4音節、という響きの共通点には掛けている。とはいえ、どれもIPPONグランプリであれば0点を出しかねない回答だ。
陣内も、何度も「この問題意味わからん」「こんな問題、正解あんのか」と、ずっと文句を言い続けていた。
散々スベった挙句、陣内は松本にも回答するように迫る。「正解を教えろ!」
そう言いたくなる気持ちはわかる。この問題で、爆笑を取れるような正解が本当にあるのか、疑わしい。笑いの天才・松本なら上手く答えられるというのか?
しかし、松本は少し考えてフリップにペンを走らせ、次のように返す。
「Lolee-Hen-Hen-Poon ほど甘くないから」
…この回答は、あまりに、あまりに凄い。僕は震えた。
だから、そのことについて少し考察したい。
「異物 in 日常」と 「日常 in 異世界」
その一、松本は主体へのアプローチが違う。
普通の芸人であれば、Bling-Ban-Ban-Bornを「何か異質なもの」と捉えて考える。自分の暮らすこの世界に異物が置かれたと考え、その異物がどのような特徴を持っているかを探り、何らかのズレを見出す。これは、「①異物 in 日常」な考え方である。
陣内の問題点は、「②日常 in 日常」な考え方をしていることだ。カルシウムが多い、田中みな実が食べている、これは普通の世界で日常に起こることで、Bling-Ban-Ban-Bornである必要がない。そこには、何らズレが無い。ズレがないから笑いは生まれづらい。
一方で、松本は、“Bling-Ban-Ban-Bornという奇怪な名称の食べ物が存在するのが普通の世界”を設定し、その舞台で勝手に話を進める。その世界には、Lolee-Hen-Hen-Poonという別の変な食べ物も、当然のように存在する。だってそういう世界だから。
これは「③日常 in 異世界」な考え方である。根本的に、問題の解き方が全く違う。どこでズレを作るのか、大勢が「物体側」にそれを求める。対して、松本は「物体が乗る舞台側」にズレを仕掛ける。観察する主体がいる場所そのものを大胆にズラしてしまうのだ。そこに、笑いの爆発力の違いがある。
→ 「松本は、問題の木をその根っこからひっくり返してしまう。」
ちなみに、今叫んで流行っているのは④異物 in 異世界。普通の自分が異世界転生してその世界の異物として活躍するというストーリー。
補集合を使った証明
その二、松本は客体へのアプローチも違う。
普通の芸人は、Bling-Ban-Ban-Born自体に理由を求める。しかし、書いた通り、B-B-B-B側には取っ掛かりが少ないので、適切な理由を見つけるのは難しい。
そこで、松本はLolee-Hen-Hen-Poonという「B-B-B-Bでないもの」について考える。これは数学でいえば、補集合を使った証明の手法だ。
SupremeのTシャツが正規品かどうか、を直接判定するのは難しい場合は、偽物の特徴集合を分析し、それを否定することで鑑定をする。補集合空間Uᶜ を適切に分析すれば、空間Uの特徴を証明できる。
松本はB-B-B-Bが直接分析しづらい概念であることを即座に見抜いたのだろう。そこで、補集合側へ視点を移せないかを考えた。
→ 「松本は、問題の木ではなく、葉の上の虫を分析することで木を研究する。」
この視点の転回は、ビジネスでも重要だ。クライアントの課長が「この仕様を今からBling-Ban-Ban-Bornにしろ」と言って来た時を考えよう。納期も近いのに、あの複雑で工数のかさむB-B-B-Bを、いまさらに要求されている!
凡百のビジネスマンは、自社の中にB-B-B-Bという異物が入ってきたことに目を回し、ああだこうだと議論する。誰が対応を、工数は、予算は、、、これはまさに、異物 in 日常な考え方。
一方、松本は「その異質な要求が生まれたクライアントの社内」に思考を飛ばす。そこでは、異物的要求が、自然に生まれる背景があるはず。日常 in 異世界で考えることが出来る松本は、静かに目を閉じる。「もしや、先方の部長がLolee-Hen-Hen-Poonについて検討しだしているのかもしれんな、だとすれば厄介だ.…」
—
「異物の異質性」ではなく、「異物が日常になり得る異世界の構造」を考える。僕はその思考パターンが好きだ。だって此処は霞が関のように、不可思議な何かの背景構造を想像するのは楽しい。
ちなみに、「日常 in 異世界」という笑いのジャンルについては、ラーメンズの小林賢太郎が先駆者だと思う。彼のコントは「非常識な世界に住んでる人の常識」という設定が多い。
…みなさんから見たら非常識な世界なんですけど、非常識な世界に住んでる人の常識をやってるわけですよ。ところが常識の世界の中で起こった非常識を描こうとしているものが多いし、自分もやってたなと”
――小林賢太郎(2001年 トップランナーズ)
小林賢太郎はその路線の可能性を深く探求したが、松本人志はこれをあくまで色々なお笑いの引き出しの1カードとしてこともなく使いこなしている。
やはり凄すぎる。
わずか5秒の答えに、芸人の頂点の実力を見せつけられた。


すごく面白かったです🤩
「IPPONグランプリで見かけた事のある、え、どうしてそんな発想ができるの??とハッとする、あれだなー」
と松ちゃんの回答を(文章を)見て思ったのですが、
考察や解説、ビジネスシーンへの転用…
同じものを見てもこんなに考えることが違う。
いつも「自分と全く発想の違う人の頭の中を覗かせてもらってる」という感じがすごくします🙏
知的体験をありがとうございます🙏
“大喜利が苦手だという陣内孝則に、大喜利をやらせる”
→ 俳優の陣内さんへ無茶振りみたいになってます