行くぜ経済学
4月から、社会人として大学院に通い、経済学を学びはじめた。
この件については、周囲から主に3つの質問を受ける。
1.なぜ社会人になってわざわざ大学院に?
2.大学院って受験とかするんですか?
3.なぜ経済学を?
である。1、2についても話したいことは色々とあるが、ここでは3について話してみたい。
なぜ経済学?…
経済学と云うと、一般的には、金融・経済成長・金利・市場均衡、といった話が想像されやすいのではないかと思う。いわゆる、マクロ経済学やミクロ経済学である。以前の僕の経済学の理解も、同じだった。
僕の立場×経済学で云うと、政府の仕事に役に立てるとか、もしくは計量経済学的な、データ分析のアプローチを深めようとする、などを想像されることもある。
しかしそうではない。現代の経済学の射程は、門外漢が外部から想像するよりも、遥かに広い。僕にとっても、その気付きと驚きが、経済学を志した理由になった。
このブログでも扱っているが、僕は下記のようなテーマに強い興味があるようだ。
・数値で扱えるもの vs. 扱えないもの
・制度 vs. 制度外のソフトパワー
・個人の合理 vs. 組織/社会の善
・集団を統率する数値と、数値以外の規範
しかし、そういった諸々を扱うための道具が、どの学問分野で提供されているのか、を正しく把握していなかった。社会学や政治哲学に薄く手を出してみたこともある…しかしどうにも、自身の指向とは、合わなかった。
メルカリに在籍しながら大学院に通っていた、mihozonoにも相談したが、自身の興味にぴったり合う、特定の学問の派生分野の名称を見つけることが何より重要だと、アドバイスを貰った(mihoさんはいまや文化人類学で博士課程だ)。
そんな中、偶然、実は経済学がそうなのかもしれない、という仮説を持つに至った。
特に興味を持ったのが、「組織と制度の経済学」というジャンルだ。
きっかけは、去年、政府でGDPに関わる仕事をしたことだった。
その際に、関連する文献を読む中で、Beyond GDPや厚生経済学、社会全体の善を考える経済学者の存在に触れた。そこから、経済学について興味を深め、ChatGPTと諸々対話する中で、経済学の射程の広さを理解することが出来た。
こういう時には、AIが持つ広範な知識は本当に便利だ。組織と制度の経済学、は同じ経済学でも、GDPのような国民経済計算や厚生経済学とは全く別のジャンルで、そこに辿り着けたのは、ChatGPTとの繰り返しの対話の力ならではだったと思う。
組織と制度の経済学を理解するには、Oliver Williamsonが提示した社会分析の4階層がわかりやすい(L=Layer)。
L1:規範・慣習・伝統
L2:L1の上に築かれる、司法・政治・官僚制・財産権などの制度
L3:L2に立脚した、組織統治、契約、組織の形態
L4:L3のうえに成り立つ、取引とそれと通した、資源配分
従来の経済学が扱っていたのは、L4=Layer4(取引)で、多くの人が想像する経済学(特にミクロ経済学だが)もここに位置する。
しかし、上記整理の通り、L4←L3、L3←L2といった前提関係の上に成り立っている。故に現代のミクロ経済学は、より上の層を分析対象に含める流れで進化をしている。L3には組織経済学や契約理論、L2/3をまとめた新制度派経済学など、それぞれの層で、経済学のジャンルが台頭している。
(Gemini)
経済学は、歴史的に「下位の層から上位の層へ」と分析のスコープを広げてきた。
第1期:資源配分の最適化(L4中心)
1950年代までの主流派。制度を所与の条件として固定。価格を通じた効率的な資源配分のみを数学的に記述した。
第2期:組織と契約の理論化(L3の獲得)
1970年代〜。コーズやウィリアムソンが、取引コストの概念を導入。市場ではなく「企業」という組織が必要なのかを、ガバナンスの選択問題として定義。第3期:制度と国家の役割(L2の統合)
1990年代〜。ダグラス・ノースらが、法や財産権といった「ゲームのルール」が経済成長の成否を分けることを実証。歴史学的な視点を経済学に統合。第4期:規範と文化の数理化(L1の解明)
2000年代〜現在。ゲーム理論の発展により、文化や慣習といった「目に見えない規範」を、人々の期待が一致した「均衡」として扱うことが可能に。
勉強中なので、第4期についてはこの説明が正しいのかはわからないが、大枠はこんなところだろう。
結果的に、経済学は、単に表層的な経済活動=L4についてのみではなく、その背景にある諸所の条件や構造=L3/2/1を統合して分析するようになっているようだ。現代の経済学は、元来の印象を大きく超越して、規範(信頼や評判)といった非公式の制度、人間のアイデンティティ、内生的な制度の変化、など背景構造にも分析の焦点を置いているという。
そうだとしたら、相当に面白い….世界の全て(自然科学は別としても)を理解できる学問といってもいいじゃないか。これを学ばない手はない!
…..
と、まあ、これが経済学素人の僕が辿った思考の大まかな流れである。
そして実際に入学し、いまは、まず基礎としてL4(一般的なミクロ経済学)の最低限のイロハを叩き込まれ、それだけで今は音を上げそうになっている。
学問は甘くない。
興味の中心であるL3/L2は、いうても相当の応用問題である。辿り着けるのは、大分先だろう。しかし、それが学問の持つ蓄積の厚さであり、僕が興味を持った事物の根深さでもある。当時のテンションは挫かれそうだが、積み上げていくしか無い。
独習であれば一瞬で逃げ出していただろうが、ここは移動の不自由の戦略だ。知りたいことにホントに辿り着けるのか、全く確信もないが、やると決めた。辛いが、行くぜ、経済学。
※ 「大学院って受験とかするんですか? 」については、緊迫した日々をを読んでもらえればと思う。めちゃくちゃちゃんと受験をしている。
※ 余談だが、社会学は薄く学ぶには、とても面白かった。こちらのオンライン講座が超オススメである。デュルケム、ヴェーバー、ブルデュー、ボードリヤール、レヴィ・ストロース、フーコーなど、有名どころの学者の主張が、手軽に学べる。

