あるきっかけ1で、久しぶりに北尾さんに連絡したら無性にCoccoが聴きたくなった。以前にそういう会話をTwitterでしたからだろう。
Coccoには名曲と云えるナンバーが死ぬ程あるが、「風化風葬」で意見が合致するのは、多分珍しい。これはマジで名曲で、僕はこれを聴きながら棺桶に入りたい。
壊れてしまうのは何故なのなんて 今は動けない足で いつか
でも大丈夫 あなたはきっと わたしを忘れるから
忘れるから
…忘れるかな?―― 風化風葬(Cocco)
この曲の歌詞の解釈の仕方はいくつもあると思うが、僕は「アーティストの死」についての詩ということにしている、勝手に。
つまり、「私はいつかいなくなり、貴方は私の歌も忘れてしまうでしょう。でもそれでも貴方は大丈夫。…..大丈夫?」という、相手の卒業を願う気持ちと、創作者として忘れ去られてしまう気持ちの切なさと。そのグラデーション。
まあ、この詩はどうとでも読めて、
対象を恋愛に置き換えてもいいし、故郷や親族に置いても良い。ただ、この曲は活動休止の時期と重ねて発表されたはずで、「アーティストの死」の解釈は十分成り立つ。正解はなくて、確かなのはこの曲が本当に素晴らしいこと云うことだけ。
解釈は読者の数だけある。
風化風葬の歌詞からも見るに、Coccoは多分、ファンには自分の歌を忘れず、むしろ依存してほしかったと思う。でも、同時に一度放ってしまった音楽をどう扱うかは、その意図含めて読み手側の権利になる。先日登場してもらった、故チバユウスケも「作者の本意なんてわからなくて、聴いて勝手に勇気をもらったり、勝手に悲しんだり喜んだりできるのが音楽」と云っていた。
哲学者のロラン・バルトはこれを「作者の死」などと云った。書かれた瞬間に、作者は切り離される。作者がどんな意図を持っていたかは、もう関係ない。読者がそれぞれの中に、勝手な作品のコピーを作り、保持する。創作者にとっては残酷なことだ。
作者の死。
….
以前に、あの娘のことが好きなのはについて、読者がコメントをくれた。
ありがとうございます。
件の「メリットのCM」というのは、下記の動画なのだが2、サムネを見ての通り、親と子育てを主題としたもので、椎名林檎の楽曲、特に「幸福論」「ギブス」のような初期のナンバーをこれに使うというのは、実はとんでもない発想だ。
僕は高校時代に現役で椎名林檎を訊いていたから、よく分かる。タワーレコードで食い入るようにPVを見て、デューセンバーグのギターがほしかった。ギブスも幸福論も、どちらも尖った鋭利な恋愛ソングで、偏執的で文学的メンヘラの匂い3がするのがたまらん、っていう類の音楽。子育てのイメージとは真逆かも知れない4。

しかし、メリットのCM見てみると、これがトンデモナイ破壊力の代物だ。
僕の同世代で、これ見て泣かん親いる?マジで無理なんですけどー😂
※ 涙活したい人だけ、ぜひ見てください。
メリット しあわせ篇(楽曲:幸福論)
時の流れと空の色に 何も望みはしないように
素顔で泣いて笑う君に エナジーを燃やすだけなんです―― 幸福論(椎名林檎)
メリット 手をつないだ日篇(楽曲:ギブス)
此処にいて ずっとずっと
明日のことはわからない だからぎゅっとしててね
I wanna be with you
そばに来て もっともっと―― ギブス(椎名林檎)
不思議なもので、こうして歌詞を見ると、こどもに向けた歌にしか思えない。
幸福論もギブスも、歌詞は25年前のあの日から変わっていない。でも、受け手が違った文脈で見れば、本来の意味から遊離して、全く違った歌になる。これも「作者の死」の一つの形だろう――作者の意図とは無関係に、読者が勝手にその世界を読む。
でも、
これはバルトが云う「作者の死」のように単純なものでは無い気もする。
仮に、あくまで仮にだけど、椎名林檎が本当に幸福論を出した19歳で死んでいたら、このCMの印象も違った気がするのだ。あのCMは若い頃に椎名林檎を聴き、それから25年の時が経ち、子を持つようになった世代を狙い撃ちしている。25年、色んな事があった。椎名林檎も同じように時を重ねて、3児の母になった。あの曲を聴き胸を切なくしていた高校生たちも、みんな大人になり、親になった。
椎名林檎という作者、同世代のファンたち、それらが僕と同じ時を生き、同じように歳を重ねている。この感覚が、「19歳のラブソング」だったはずのものを、「子に捧げる親の愛」として、違和感無く再解釈して受け取れるようにしている。
それは、椎名林檎が表現した、恋人に対する「過剰なまでで、痛いほどに無償な愛」が実は、普遍的なものだったから。当時の彼女の想いの強さは、対象を変えただけであくまでずっとそこにあった。それが、時を超えて再び受肉し蘇生した。
確かに、読者が勝手に読んでいる。でも、その読みの思考の何処かで、確実に椎名林檎と、彼女がいた25年間という、作者の実存が生き続けている気がするんだ。
だから、これは「作者の死」なんかじゃない。…
—
….ああ、でも良い。
そんなコトどうでも良くなるくらいに、本当に良い。メリットさんありがとう。コメントくれたあなたもありがとう。マジで何回も見てます。
ちなみにムスメ(3歳)に見せたら何故か爆笑してました。
沢山のホットケーキが空を飛んでいて、彼女は幸せ。これが、25年の重みなんて持ってない、世界の新入りの反応。ばーか。
*
広告の賞も取っているようだ。これは納得。以前書いた、西武の広告もその年の広告賞を幾つも取ったようだが、これについて審査員はまともな評価が出来ているのだろうか。
よく考えたらCoccoもメンヘラ型音楽だが、別にそういうつもりで聴いているわけでもない…音楽以外では人生ではメンヘラには余り縁がない。
幸福論とギブスの間にリリースされた「歌舞伎町の女王」などは、育児放棄を匂わせる歌詞だったり。ヤバ。
15になったわたしを 置いて女王は消えた
毎週金曜日に来てた 男と暮らすのだろう――歌舞伎町の女王(椎名林檎)
尚、ギブスなら「また4月が来たよ 同じ日のことを」の部分もメリットのCMには使えそうだなと思った。入学式っぽい。「4月」はカート・コバーンが自殺した日を指すという説があるが、それは本人が否定している。





とりあげて頂き嬉しいです。
あの時の椎名林檎をリアルタイムで見ていたが故のブッ刺さり具合なもんで、"恋人に対する「過剰なまでで、…"の部分に赤べこ化しました。
そして、世界の新入りちゃんの反応に癒されました。ありがとうございます。
いいねが一つしかつけられないのが残念です。たくさんつけたい。