直近見かけた、最強パワーワードの話でもしよう。
フランス革命に関係する解説Youtubeを幾つか見ているのだけど。その中でロベスピエールについて「彼はスピード感を持って処刑するために法律を変えた」という説明が出てくる動画があった。
――スピード感を持って処刑。
いや、これはとんでもないパワーワードだ。実際にロベスピエールは法律を変え、処刑の件数を加速した。かつての岸田首相は「更なる検討を加速する」と言って、その語感を批判されていたが、処刑を加速するくらいなら、検討を加速して何も起きないほうがはるかにマシだろう。
速さか遅さか
ロベスピエールはかなり極端な例だが、現代に生きる僕たちも人類史上どの時代よりも「スピード感」を愛して暮らしている1。でも冷静になって考えると、何故そんなに速いことを求めているんだろう。以前にAIについてなんで早いほうが良いんだっけ?と書いたが、このテーマにはどうにも興味がある。
政府に来て、幸か不幸かよくわからないが、「大体のことが遅い」という経験をそれなりにさせてもらっている。
政府は組織や制度が古く何もかもが鈍重で非効率で遅い、そう言ってしまえば話は簡単だが、恐らく行政の遅さには本質的に意味がある2。
宇野常寛が、民主主義とはベストな意思決定をするためではなく、最悪の意思決定を避けるためにある、ということを言っていて、それはその通りなのだろうと思う3。民主制を採用した近代国家は、良い意思決定を迅速にするためには作られていない。むしろ、「スピード感を持って処刑する」というようなロベスピエール事案が起こらないよう、あえて遅く設計されていると言える。
そのレンズで世界を見渡すと、「遅さ」とは寧ろ救いなのではという気もしてきて、どちらかと言えば、「速くないとダメだ」という僕らの体感覚の方が問題だとも感じるようになってくる。
僕も元来、何でも速いほうが良いという信仰の信者であって、スタートアップ生活を経て、スピード感という宗教には、かなり毒されている。しかして、近ごろは歳もあってか、その信義に疑念を抱きつつある。
不公平な戦い
速さvs.遅さの戦いは、そもそもが不公平な構造にある。
速さとは、決めて前に進むこと。これには明確な利点があって、結果も速く返ってくるからその価値を評価しやすい。この点をスタートアップは最大限に活かしている。行動・結果・修正、このサイクルで物事をどんどんと更新していく4。
一方で遅さとはその逆で、「決めずに立ち止まること」。
こう文字にしてしまうと、鈍重で無能な印象にも繋がる。しかし、そこに大きな意味がある――拙速な決断で起こっていただろうこと惨事を防ぐことは、この遅さでしか担保できない。これは価値として非常にわかりづらい。立ち止まったから起こらなかったこと、は現実に目に見えない。
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すぐ結果が返ってくる気持ちよさっていうのは、カラダに染み付くと中々抜けない。SNSなどはまさにそうで、投稿すればその1秒後からレスポンスが突きはじめる。これが、「良いねやコメントは1ヶ月後に返ってきます」だったら、面白さの種類はぜんぜん違うだろう(今だからこそ、そういうのもいいとは思うけど…そのうちそんなSNSも出てくるかも?)。
メルカリで、売上をトラッキングするダッシュボードを作っていたけど、最初は日次だったのに気づけば分速でわかるものを創るようになっていた。15時に打った施策の効果が、30分後には大体わかる。チームは沸く。楽しい。
この即時の結果の回収が持つ快楽は圧倒的。
でも、この「速さ」についての30代までに身についてしまった体感覚を少しづつ抜いていかないといけないな、と思う。公共の仕事、こども、学問。40代、ここから大事なことは、いつだって時間を置かないと返ってこないことばかりだ。
その結果・意味はいつだって時間差で、意外な形でやってくる。miyattiが安い愛という話をしていたが、大事なものとは「遅い愛」でもある。
いつか、遅れてやってくるかもしれない愛を信じられるか。
速さとの不公平な戦いを強いられながら。
関連記事:宇宙の中で良いことを , 移動の不自由
僕たちが速さを信奉する理由は、パッと思いつくだけでも複数ある。
1 / 不確実性の早期解消――僕がスピード感を求める理由はこれに起因するところが大きい。物事が決まらない、何かを待っている状態は、不確実性を内在している。不確実性は不安で、不愉快だ。その待ち状態をできるだけ速く解除したいという欲求。
2 / 時間的な非対称性。何かとの競争と言い換えても近いかもしれない。米国はAIの開発を急ぐが、それは中国に遅れを取ってはならないという恐れから来ていて、それは核の開発とか、月に行くとか、繰り返されてきた競争の歴史だ。多分ロベスピエールも、政敵との競争が「スピード感を持って処刑」の背景にあっただろう。
3 / 道具の問題。現代では、物事を速く進めるための道具が揃っている。SlackやLINEなど、コミュニケーションツールは代を経るごとに、速度を加速する方向に向かっている。
4 / 社会規範。
以前書いた通り、官僚が無能という批判は当たらない。
元ネタは宇野違いだが、宇野重規の民主主義論だと思われる。
このリーンスタートアップが2010-2020年のスタートアップの教義だったが、いまでは過去のことになりつつある。


